「美童花染小」のシングル盤ほか

mabuya2010-04-15

〈南方〉の一切を、封印することはできない。地域だけで音楽をひとくくりできない。沖縄からの年賀状は激減したけれども…。久々に沖縄ものを引っ張りだしたきっかけは小浜司『島唄レコード百花繚乱 嘉手苅林昌とその時代』を購入したこと。はて、これが県産本(沖縄県内の出版)であることが意外だ。90年代ならばヤマトの出版社から上梓されてもおかしくないのだが、同じ出版社からは普久原恒勇も上原直彦も続々刊行されているということは、なりふりかまわず?いやドメスティックで安定した役割を果たすようになったのか。司先生がネット上で既に発表済みのエッセイが集成されているから一度は目を通していたはず、できれば書き下ろしも願いたかったがヤマトの新書本と比べてとりわけ安易だとは言えず。あらためて紐解けば新たな発見があるのは、液晶画面と紙の違いというよりも目下の当方が持つ興味の違いか。《上原直彦》と《知名定男》のゴールデンコンビの記載が気になる。まずは玉城一美・玉城清美「美童花染小」。メジャーセブンスのイントロから巧みなコード進行まで70年代のかほり濃厚なのだが、バンド演奏と三線の響きの絡みは知名定男独自のもの。ちなみにバンドとは《リンケンバンド》と表記されているのが時代を感じさせる。同じく表記された発行年が79.11。同曲はかつて愛情のないコンピレーションに収められたこともあったが、やまとに居ながらにしてあらためて美品を入手することができた。普久原楽器のアナログ盤コーナーである。アナログ盤といえば主に那覇市内のレコード店のディスプレイの下のほうとか店の隅の壁面に無造作に押し込められた中から探した楽しい思い出に包まれている。なお同店のコーナーには他にも《どうしても復刻してもらいたい一枚》と評された安富祖竹久も、《復刻されることなく、自分ひとりだけでイヒヒと聴いておきたいアルバム》と言わせしめた大浜みねも簡単に、しかも安価で入手できてしまう。既に愛聴されている方には今更ということであるし、このコーナーもおそらく在庫一掃であろうが、当方はサボっていたので今更、なのである。そもそも誰彼が推薦していたから、という態度が残ってしまっていることも駄目さ加減最たるものだが、司先生だからよしとしたい。知名定男で検索して偶然にみつけたのがこの本。目次を見て思わず嬉しくなってしまう内容である(ようである)が、難点はその価格。みすず書房を越えている。学術書扱いなので全国の図書館におけばよいと考えているのだろうか。内容さえよければ手を出したい気持ちもあるが嫌な予感もなくもない。知名定男関連書籍は運に恵まれていない。自伝では監修が不在で誤植も多かったし。話を「美童花染小」に戻せば、最初の出会いは『天縁』(アカバナー)。ワールドミュージック・バブル後半の頃か、当初はアフリカなど異文化のアレンジが強引であったり、とりわけハープが曲の情緒を規定してしまったりとそんな箇所ばかり感じていたが、あらためて聴き返せばそんな些細なことにこだわる必要はなく、ボーカルのよさを引き立てている。ディスクアカバナーといえばネーネーズのファーストに尽きるというのが世の評価であろうが、本昨もまた歳月の流れに耐えうる名作だと思う。