東京27時間pt.2

さて徹夜の後、帰る当てもないのに当方もお暇する。この機会に都電荒川線に初めて乗車。大塚駅で乗換。ソフトボールへ向かうユニフォーム姿の小学生、駅を乗り越してしまう老人、身体障害者など弱者の利用度が高い。途中冷えて何度もトイレ下車、一日乗車券が便利だった。ほか車庫を見学したり。

次の目的地である渋谷区立松濤美術館副都心線で、と乗車してしまってから階段の多さに(ちょうど東山線でなく桜通線に乗ったように)いつも後悔する。疲れもあって坂道を歩くのを避け京王井の頭線を一区間のみ使用。渋谷の雑踏から僅かな距離で閑静な住宅地。丁寧な行き先表示でたどりつく。「村山槐多 ガランスの悦楽」300円。丸い中庭を囲むドーナツ型の建物で、展示室はB1と2階に分散している。小さな美術館にふさわしい題材か。なぜこの企画を知っていたかといえば、三重県立美術館から3作品、間借りしていたので。同館でも個人展が開催されたことがあったはず。そのうちの油絵「自画像」はここでも異彩を放つ。ラウンジでうとうとしかけたが係員から本来ならば喫茶を利用するためのスペースだと説明された。禁欲的に図録求めず。

京王井の頭線を進んで明大前へ。モダンミュージック。店長としばし歓談。景気と健康の話題ばかりなのはいつものこと。

  • 河端一 Kawabata Makoto - Under Your Moonshine (Qbico, LP)
  • 高松貴久 - SP盤!其の五、Live! 2000 (2CD)


再度、井の頭線で渋谷へ戻る。斎藤充正さんのトーク・イヴェント「新・音樂夜噺」。同氏のブログにて偶然に知った企画。こんな機会でなければお目にかかることもないだろうと予定に組み込んでいた。昼のうちに会場を確認しようと、印刷したGoogle地図を片手にうろついてみた。渋谷駅をわずかに外れたところなのに堀のそばのひなびた風景。肝心の店名を記してこなかったので辿り着けなかった。開場時間に出向けば小型の立て看が用意されていた。テーブルを囲んで20人も入れば満席となろう会場、1800 with 1drink。結局ビール。まず新作の「ライヴ・イン・トーキョー1988」を記念に求める。どうもお客が互いに知り合いのようだが当方には誰が誰なのか知る由もなく、場違いなところへきてしまったのか、いちばん隅っこへ陣取る。そこは斎藤さんの隣りだった。定刻をわずかに過ぎて始まる。持参されたレコードジャケットをテーブルでお披露目しながら、静かな語り口で曲を紹介していく。テーマは「アストル・ピアソラと女たち」、当然ゴシップがないわけがなかろうが、本日はあくまでも女性の絡んだ録音を紹介していく。『闘うタンゴ』で取り組んだ方法を踏襲している。tangodelogに登場した曲も多いし、やはりアナログ盤、しかも帯付だと会場のどよめきを誘う。どの曲もフェードアウトしていくなか(ミルバ×ピアソラの新譜を除けば)唯一、完奏されたのは逆説的だが男性ボーカルの「アディオス・ノニーノ」(Raul Lavie)、思わず聞き惚れてしまう。斎藤さんも客と一緒に聞き入っていられる。決して歩みを止めることのなかったピアソラ。それは斎藤さんも同じく、ニューウェイヴの時代からタンゴへ、そしてピアソラへ志を持続され、役割を堂々引き受けられ、歩みを止めることはなかったではなかったか。そうなのだ、やはり男のロマンだ、女こどもの出る幕ではない、などと威勢をつけたいところだがそう簡単には片付けられぬ。当方の向かい奥手に小学低学年の娘さんを連れたご婦人が居られた。壁全面のガラス窓に接し冷えやすい場所だったろうに2時間以上、大人しくしていた娘さんはしっかり者。エアーピアノもしていたから音楽のある日常を送っているのであろう。その姿を見守る、やさしい眼の女性は『闘うタンゴ』でdedicateされていたご家族ではなかったか。こんなふうに家族の協力と理解があることはどんなに尊いことか。当方はといえば家族の承認があって、こうしてへらへらと好きなことをさせてもらってきたのだが。当方、勝手な思い入れが交錯したまま拍手した。初対面にて不躾ながら『闘うタンゴ』(第一刷)にサインを申し出て帰路に、ではなくて最後の用事へ向かう。

  • Milva & Astor Piazzolla - Live in Tokyo 1988 (2CD)


今回上京のフィナーレはまたも高円寺。しかしどうして快速の停車駅が平日と休日と異なるのか、どうして同じホームの対側で乗り換えができないのか、納得できないまま中野駅での乗り換えで焦る。円盤のライヴタイムもまたお初。「Americo presents attack service pt.16」1000 with 1drink。黒ホッピーにとびついてしまう。20 Guildersには今宵またしても(失礼)ゲストに河端一、さらに東洋之も参加で40 Guildersだという。いわば昨晩の反歌のような位置づけで観ずに帰るわけにも行かぬ。決して数多く観てきたわけではないが20 Guilders、どの曲も馴染み深く、口ずさめるようになってしまった。河端さんのギターが大きめでいつもの「魂のデュオ」色は減ってしまったが最前列で楽しんだ。アンコールも終わり、この時間ならば新幹線の終電〜近鉄の終電に間に合うことに気づく。もともとムーンライトながらに乗ることができればそうしたのだが青春18きっぷのシーズンで指定席が売り切れていた。「朝帰り」と「終電帰り」とでは家族に対する受けあいは月とスッポン、Americoの皆さんには失礼千万ながら急遽深夜バスをキャンセルすることとにして、皆様に挨拶もせず高円寺駅へ走った。帰りの新宿駅ではなぜか山手線が向いのホームですぐに乗り換えることができた。新幹線内では早速CDウォークマンピアソラ+ミルバを聴いていた。