44年ぶりのジャングル大帝

TVのチャンネルを変えていたら偶然に聞き覚えのある、いや琴線に触れると言ってさしつかえない伸びやかな歌声が聞こえてきた。NHK第41回思い出のメロディー。背筋のしゃんと伸びた、白髪のオペラ歌手が「ジャングル大帝」のテーマ曲をステージで生で歌われている。後方にはプロジェクタが据えられていてタイトルバックの映像も同時に流されていた。オリジナルに忠実な唱法。平野忠彦氏が再演されているのだ。決して大柄な方ではないがこの堂々とした出来はどうだろう。鳥肌が立った。番組内の小コーナーとして成り立っているようで、この後「アニソン」を生業とする歌手による楽曲が続いた。しかしそれらと一線を画していたのは明白だった。四十余年を経て生で聴かせること。ファン気質の感動を超えてしまっているようでならない。いったい氏はどんな気持ちで歌うのか。この仕事は氏にとって番外編にちがいない、若き日の氏にとってもそうであったように。いったい44年前にレコーディングした際、こうなることを予想しただろうか。するわけがない。する必要がない。そんな功名心で手がけたわけではなかろう。たかがTVアニメである。たかが…で手を抜くことのない姿勢である。ちょうど伊福部昭が、渡辺宙明が決して手を抜くことのなかったように。しかしながら、あっぱれ、いい仕事、であった。