復刻拡大版「コザ残像」(丹躑躅山房)

1984年に上梓された《フォート・コレクション》が今月になって復刊された。厳密にはオリジナル復刻ではなく28本のエッセイが新たに収録されている。28人の執筆者のなかには普久原恒勇、ビセカツ(社長)などうなずける人選もあるが、多数派は90年代以降、コザに惹かれた新鋭ナイチャーで占められている。図らずも幾人かが共通して《私のコザ》、コザとの出会いを語っている。ところで書中の写真に残された風景は戦後〜昭和30年代までのもの。ナイチャーたちの記述が20世紀末あたりに密集していることとのタイムラグが生じている。書籍に収められた風景の頃のことは記憶にない。例外的に収められた1984年上梓当時の風景も含めて、90年代のコザでさえ失われつつある風景であろう。だがこのギャップが仕掛けとなっていることに気づく。実際、本書に収められた風景は「激動の昭和史」とは縁遠い、ある日のコザ、日常の風景なのだから。初版の巻頭に引用された鮎川信夫の文が言い尽くしていよう、《失われたものへの郷愁、それらが存在した時代を、本当はすこしもよい時代だったと思っていないくせに、郷愁だけは確実に存在する。ということは、失われたものの価値は、どんなに小さくても永遠であるのに、獲得された価値は、いかに大きくとも、不確実にしか存在していないことから起るかもしれない。》なぜにこの書を取り上げているかといえば、当方も小文を書かせていただいたからなんですね。しかも相当ご迷惑をかけてしまいました。この場を借りてお詫びと感謝を。