佐伯一郎@はまホール

mabuya2010-05-05

浜松へ。新幹線往復切符を使用すれば片道4300円かかるところGW中にもかかわらず2620円で済む。ただし日帰りが条件であることと、豊橋駅で改札の出入りがなければ無効なのだが、豊橋駅ではどの便も通過列車待ち時間が5分間は保障されるため楽勝なのだ。とはいうものの家族連れだったら家族全員にこれを強いることは躊躇ってしまうのだが。さて肝心の出発じだい遅れてしまい、会場に到着すれば4時間以上の長丁場のうち、佐伯一郎先生の最初の出番、和装して歌われたコーナーは既に終わっており、お弟子さんらの歌声が続いている。今年、用心棒が2名だけだったのが気にかかる。主題は第二部。恒例の、客席脇から登場された先生の足取りは昨年に比べて軽い。更なる手術を重ねられたようだ。実際、歌唱中に椅子を使用されることはなかったのだが、既に70代の半ばに入って居られ、ファン・サービスも交えたこれほどのショー、何度でも言うが恒例のリサイタルをこなすことに頭がさがる。さて昨年は舞台上をバーに模したセットと洒落込み、佐伯先生がバーのテーブル席に位置したその前方ステージでお弟子さんらが歌を披露する形だった。今年もまた左右にテーブルを配置し、出番ではないが気のおけないメンバー、地元のカラオケバーのマスターらも含めて酒を楽しむといった雰囲気は同様。ただし新たに中央にグランドピアノが据えられており、その椅子が佐伯先生の定位置となる。何が違うのかといえば、カラオケをバックに歌手たちが歌う最中、後方の佐伯先生はその間、ピアノに向かわれる。クチパクならぬエアピアノか、いや違う。PAの音に集中すれば大音量のカラオケに紛れて先生の弾くピアノの音がくっきりと聞こえる。楽屋をお伺いした際「ピアノを叩くだけ」などとこれは謙遜かと受け止めた台詞が実際そうでもないことに気づく。先生が舞台を移動される慎重さとは裏腹に、鍵盤を操る両手は大胆で釘付けに。スピードと弾力性にあふれ、パーカッシヴなコードのみならず間奏ではソロが入ったり、ローリングも入るなど大サービス。せっかくの自作自演の好機であるのに、なぜこのようにカラオケとの共演を強いられてしまうのか、これは音楽マニアとしてないものねだりに過ぎないだろうが……と歯軋りすれば、その無念の想いが通じたのかなんとピアノ伴奏のみで歌うコーナーへと移っていく。すると今度は、いつの間にか右奥にはドラムセットが据えられていて、どんな方なのか不明であるがバッキングが入った。しかも不可解なことに佐伯先生のピアノにうまく合っていかない。またしても訪れる困難さ。しかしステージ上の先生はこの事態に決して慌てることなく、そのことにはやんわりと言及して演奏に集中される。ここにもまた佐伯先生のお人柄が表れていた。今年もまた「みだれ髪」ほか十八番といっていい、透き通った高音のビブラートが美しく堪能できたし、昨年から今年にかけて作曲家としての仕事が多いことが報告され喜ばしいことであるが、きょうのコンサートでは何と言っても自作曲のピアノ演奏にうちのめされてしまった。

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