キム・ドゥス@酒游舘

30,31日はたしかに気になるライヴが重複し、しかも両日のうち一日は仕事が当たることが前もって決まっていた。迷いもあったが、酒游舘へ。キム・ドゥスが関東圏を離れて行う初ライヴであり当方にとってもお初。矢野敏弘さんのギター、マンドリンが添えられ、シンプルな弾き語り。一曲目、CDでも聞き覚えのある曲。既視感ならぬ《既聴感》と矢野さんが訳する。なんと愛おしい言葉か。キム・ドゥスは決してがなったりシャウトしたりはしない。囀(さえず)るようにかすかなビブラートをつけて歌う。言葉が異なっていても、その声のもつ気品、確信のようなものが伝わってくる。2年前、上京した折に偶然お逢いする機会があったのだけれど、そのとき感じた印象と同じだというのもおかしな話だが否定できない。酒游舘というハコで聴けるのは、願ってもない、贅沢な時間である。ラストは「誰でも知っている曲」という矢野さんの紹介があり、もちろん陳腐に聴衆を合唱させるはずもなく、そのおなじみの曲がかくも新鮮に聴いたことはなかった。それはアレンジがいい云々というより唄のうまさだと思う。矢野さんの進行も必要十分でよかった。残念なのは集客か。酒游舘でライヴがあるということが情報として限られているわけだからやむをえない。ならば普段のアンダーグラウンドな催しはそこそこの客数でかまわないのかといえばそうでもないのだが。付け加えれば、そもそも車で酒游舘へ向かうことが最初から相当な苦しみを予感させる。だが今宵は毅然としてアルコールは我慢して帰路につく。鈴鹿峠は0.5℃であった。

  • キム・ドゥス - Evening River(夕暮れの川)(PSFD-8032)(2CD)※3曲入りのボーナスディスク付!とはいえ韓国盤と曲目に違いがあるようなのだが。