河端一ギターソロ@スミス記念堂

彦根までどうやって向かおうか。公共機関(JR)を使えば当地より東海道線経由と草津線経由ふたつのルートが考えられる。それぞれ時間と運賃を検索チェック。運賃だけを考慮すれば柘植〜草津線経由が最短、最安値となるが、実際には大垣回りが新快速なので乗車時間としてほとんど変わらぬ。ならば青空フリーきっぷ(2500円で乗り放題)を利用し快速みえにあわせて出発すれば最安のはずだった。ところが今朝、お目当ての快速みえに乗り遅れてしまった。意外と手荷物も多いことだし天気もよいので急遽、車に変更、ガソリンを満タンにして出発する。ナビにかわって搭載してあるはずのマップルがトランクに見当たらず止むを得ず道路標示を目安に進む。水口付近で白バイを続けて3台遭遇しているうちに右折するところを通り過ぎてしまい、三雲に近づいてから、いつもならば酒游舘へ向かうように近江八幡方面に北上してから適当な十字路で進路を東へ。琵琶湖の南東部の平野一帯は見晴らしがいい。湖東の山並みが白くなっているのを右手遥か遠方に眺めると快晴の空との対比が美しい(わき見運転)。それにしてもこの平地に通り過ぎていく小さな寺院の多いこと。名もなき寺。そんな中、細い国道を進み抜け近江鉄道の踏み切り先には岩肌が露わな山が聳え立ち、中腹の青銅色の寺社が見下ろしてくる(太郎坊宮)。島国ではない異国へ迷い込んだ感覚。などと寄り道しながらでも2時間弱で城がみえてくる。城がみえる、という状況は幼い頃からわくわくするもの。彦根に踏み入れるのは人生初。
スミス記念堂は彦根城のお堀西脇に隣接する木造の小さな一軒家。もともと昭和に入ってからアメリカ人牧師により彦根城外濠に建設された和風礼拝堂。それが区画整理で取り壊されるのをNPOにより解体保存され現在の場所へ再建されたという。隣りには広々とした駐車場があり、日曜日のきょうは満車。一時間100円、当日出車時にはわずか300円を支払ったのみ。そんな観光地の中心部に程近く位置しているのにどこか孤高とした、周囲とは異質の佇まいが漂う。なのに当方、道路を車で北上した際に見落としてしまったのだが。周囲には更地が広がっていて、住宅地にもほどよい距離があり、なるほどこれなら音の問題はなさそう。キリスト教礼拝とはいえ木造の寺院風の構造に壁には松竹梅の彫りが入る、まさに和洋折衷、しかし流行の珍百景どころか、小さな民芸品のような趣。中世の寺院ではなく、昭和になってからの建造物をこんなかたちで保存された尽力に感謝(それを言うなら、これをライヴのハコとして発案されたオルガナイザーにも)。堂内は学校の教室を一回り小さくしたくらいか。本来ならば祭壇を向かう長椅子が並行に列を組むところを追っ払って周辺に置き、中央を広間にする。既にアンプも大型2台と小型1台がそれぞれ天井を向けて据えられている。最終のお客は二十名台に。2000円。限定30名というのもうなずける広さ。中央の地べた座りがS席か。BBSよりご本人の表現を借りれば"trademark"たるギタードローン。白昼の河端一は、かの太陽公園についで2度目。祭壇ではなくフロア前方やや左寄りに降り、椅子に座った河端さんが柔らかな陽光の照明下、短い前置きだけで演奏が始まる。シンギングボウル〜十手で25分経過〜弓弾き〜Pinklady Lemonade(出だしがさりげないパターン)〜先日のTsurubami(東京)を思い起こさせる細かなストローク〜静かにシンギングボウルで締めた。一時間弱の一本勝負。演奏中でも自由に移動してもよい、と演奏前に演者よりコメントがあり、実際にはそうできるほどスペースが空いていたわけではないので誰もが座り続けた。しかしそうせねばならぬ必然性がないほど、美しい響きではなかったか。天井も高く、音が美しくうねっていく。側壁の窓には凝った格子が備わっていて単純な反響を抑え、音の乱反射を助ける。乳児を連れたご家族が居られて、演奏が始まった当初、赤ちゃんの歓声を交えていた。後半目立たなくなったのは音量が増しただけでなく、河端さんの音がほんたうに子守唄となったように感じられた。「ある程度の音量のほうが赤ちゃんには心地いい云々」とは河端さんご自身のことばである。河端一のドローンは当方の人生観を変えた一曲(一形態)であるが、オーディオ機器ではなく、同時代的に演者によっても工夫を凝らしたライヴに接することができるとは幸福このうえないこと。
河端一が本堂を使うライヴはシリーズが予告されていて、全9回。スタンプサービスは冗談ではなくほんとうに参加者に渡された、しかも前日に明るみとなったのは来場者全員に《録りおろし》CDRが振舞われた。望外のスーベニール、いや作品である。次回3月6日(土)には、河端がソロ活動の中で差異化して命名している「INUI」の世界初ライヴだという。もしこの連続公演が近場ではなかったらどうするだろうか、もし自分がもっと遠方に住んでいたら。そうだとしても今年の最大のイヴェントとしてお伺いするかもしれない。帰り、鈴鹿峠は摂氏1℃まで下がっていたが、道に迷わなければ自宅まで90分だった。

  • Kawabata Makoto & Michishita Shinsuke - Maru Sankaku Shikaku (Prophase Music,LP)
  • Damo Suzuki Network - ONE MORE UNIVERSE (Farpoint Recordings,CD)
  • Kawabata Makoto - Glissando Guitar (CDR, limited 30 copies)