オフノート初のコンピレーション

収録曲中、白眉としては沖縄アシッド・フォークの金字塔?NHK-FMのサイケ特集で田口さんが選曲し遂にオンエアされてしまいました黒川修司「墓標ひとつ」(ただし板起こし)であるとか大城美佐子の未発表「下千鳥」であるとか。または休みの国をカバーするオクノ修だとかオクノ修をカバーする大工哲弘だとか、それらの一曲だけでも入手するファンがいてもおかしくありません。しかしこのコンピレーションの多くはそんな名人芸ではなく、日本〜沖縄を縦断した若きミュージシャンによる演奏です。オフノート恒例のメンバーが参加しているとしても、そこには島唄の影はありません。無国籍風(と安易に書くが)インストルメンタルも多く収録されています。いまを演奏している人々のショーケースとしてみれば、意図したところかどうかこれら音だけでは盤全体のイメージは拡散していきます。いや一曲々々というより、曲を提供した一人々々の存在が優先されているように思えます。とはいえそこにあるのは、沖縄と自分との距離をどう自覚するかという問いに対する、オフノートのひとつの答えではないでしょうか。もちろんオフノートは同時進行で竹中労監修の「日本禁止歌」復刻という偉業も成し遂げています。それこそオフノートの面目躍如ということも可能です。しかし主宰者がかつて記したように(ニュアンスは違うかもしれませんが)、竹中労のお墨付きに留まらず、より若い世代へ継承していくこと。復刻モノや復刻モドキではなく、それが年を経るに連れて徐々に人々を巻き込み、大集団となり、このコンピレーションに聞かれるように、オリジナルな拡散にたどり着いたともいえましょう。ただそうだとしましても、一定のバイアスは避けられません。自分は自分で距離を自覚せねばなりません。ただ当方はそれを放棄してしまったのですから何も言えないのですが。
ほか付記させていただければ、muiという女性の歌う「昨日の森に」という曲に耳が残ってしまいました。元歌は潘秀瓊がヒットさせた南洋歌謡「峇里島(バリ島)」です。このあたりの復刻はかつて東芝EMIが「上海歌謡倶楽部」としてシリーズ化されましたが現在入手困難、ただ検索すればマレーシア産CDとか入手できるようです。休話閑題、そのカバーには抗しきれない強烈なエキゾティシズムを振り撒きます。そんなことは感じてほしくないでしょうけれども。ネーネーズの歌う「何日君再来」のように、強烈な郷愁を誘います。当方はどうしても南方を封印することができません。最近もキングの定番ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリーの中から中村とうようがめずらしく10点をつけた(立ち読みで確認)ガムランものを買ってしまいました。録音は1990年と言いますから、当方がバリ島熱に罹っている頃でしょうか。そんな懐かしさも併せて。