浦邊雅祥@酒游舘

行きたいのなら遠慮せずに行く。早めに自宅を出発し車で久々に近江八幡へ、約75kmほどの道のり、しかし渋滞もなく早く着きすぎた。今宵の出演者のみ会場に居合わせたので挨拶後、近くの食堂で腹ごしらえをして近所を散歩。いくつかの洋館。水路。懐かしい町並み。そして久々の酒遊館、ドリンク込み2000円だけでよいのかと訊いたら西村さんはいいですと。控えるつもりのアルコールを我慢しきれずリングプルのボトル入りビールのみいただいて呑み乾す。そして当方にとって純然たるソロとしては初めての浦邊雅祥
数少ない観客がまだ入り口先で談笑中だというのに、丹念な準備体操をしていた浦邊はそのまま演奏に移っていった。短めの鉄パイプを擦らせながらまま蔵の中を移動する。あるいはチェーンを同様に、だがこれらは導入で、まもなくサックスへ。艶の消されたボディとともに浦邊が舞う。今宵は録音の許可をいただいて、NonPAだからRode NT4をアッテネーターなしで最適と使用したが、次回はぜひビデオを撮ろう。酒蔵の広さを存分に利用するエンタテインメントぶり!情宣には《辛口》とあり、パブリックイメージとしてもそうかもしれないが難解ではない。よく聴けば、例えば奄美島唄のような悲しさ(なんら関連はない)、戦前ブルースの悲しさ(なんら関連はない)、美空ひばりの悲しみ(関連なし)と同様の、叫びが伝わってくるではないか。自由自在…といっても飽きさせることのない抑揚が効いている。50分ほどのソロのうちこの楽器のパートだけで40分ほど占められたのではなかったか。しばし休憩後、桑山清晴との共演へ。桑山はまず椅子を押し引きして床との摩擦音を生みながら椅子の上の石を落とす。足元の金属片を引き寄せ、また細い木の棒を振り下ろし風を切らせて床を叩きつけて折る(一本、こちらのほうへ飛び散ってきたぜ。ところでGang of FourがUrgh!のライヴでパーカッションを同様の振り方をしていたのを思い出した、桑山さんがスリムで黒ずくめだったこともあるが)。などなど浦邊に共通した方法で音を発生させた後、Celloへ。そこでもプリペアドを披露するなど一筋縄ではいかぬ。浦邊は当初フロアを歩く、足音。スプリングを振り回して風のうなりをつくる。サックスは短いブレスを中心に、観客席にまで移動しながら。しかしメインはその後だ。バリ島のバロンダンスの仮面を付けてチェーンを持って祝祭の踊りを演じた後、左側に据付の棚の上に乗っかって、ハモニカ、バンドワゴンや筒の笛に集中していく。ここでも蔵の空間を思い切って使っていて、もしビデオを撮っていたら対象を捉えるのに躍起になってしまって鑑賞どころではなかったかもしれぬ。およそ1時間にわたるデュオだった。余韻覚めやらぬうちにお暇する。
昨年の酒游舘ライヴを逃していたので(それもたいした理由ではなかったはず)今年こそとうかがうことができた。床面の利用、左右への極端な移動など蔵の空間特性を知り尽くしていたこともあるが、僅かなリスナーに対してもなんら妥協しない演奏であった。実は集客は二桁にならなかったことを記さねばならない。しかも今宵の浦邊雅祥はツアーではなく、今夏、関西唯一の出演だと後に知った。もしかすれば氏に一目を置く人物も関西に少なからず居られるかもしれぬ。しかし結果として、やはり氏は孤高であった。いったいぜんたい、関西でみかける、数多くの音楽ファンはどうしたというのだろうか。今宵、酒游舘へ来ることはメリットが少ない、と判断したのであろうか。私はといえば依然として異国であり続ける関西のライヴハウスにたまに出かけるだろう。