モスラの精神史(小野俊太郎、講談社現代新書)

駅前の書店で。「ゴジラでなくモスラが気になる」。然様、ゴジラ全集ともなるとオミットされてしまうのがモスラ伊福部昭全集から(古関裕而だから)洩れてしまうのがモスラ。SLCのステレオ盤サントラは苦労して求めた記憶が。そんなマニアックな視点からの本かといえばそうではなく、映画を出発点として現代文学、政治、芸能、音楽…へと自由に「モスラをめぐる旅」が続く。ひとつの複製芸術にいかに多くの人の集積があったか、という視点を持っているからか、知識のひけらかしではないし、こじつけではないところが心地よい。例えば、人類館事件との関連。ナウシカへつながるのもとても自然。謎解きへ閉じていくのではなく、開かれた本。同じナウシカをめぐってトンデモ新書を出してしまった人とは好対照。当方にとっては特撮本ではなく万博本=昭和モダニズムのカテゴリーへ。ひとつ、太陽の塔の内部を公開したときの記憶が定かではないのだけれど、あの展示物はまだ痕跡程度に(壊れたままに)残ってはいなかったっけ?筆者は当方とほぼ同世代。講談社現代新書の新デザインは評判が悪いけれど、そのデザインを逆手に利用した帯がまた楽しい。映画を再見してみたい。