世田谷区へ

まったく予定していなかった。上京すればライヴかレコード屋巡りのはず。しかし自宅を出発する直前、なぜか本棚にあった「ウルトラマンの東京/実相寺昭雄」の文庫本をバッグに収めたことに端を発する。渋谷ビジネスホテルでぺらぺらめくっていたらこの機会しかない、と決断。放映以来37年(「SMiLE」と同じ!)を経て初めてのこと。前夜の、JOJO広重×中屋浩市の話に触発されたこともあろうが…。こんなことは家族連れでは不可能だからというのが最大の理由か。
初めて井の頭線渋谷駅から乗車、下北沢で小田急線の各停に乗り換える。雨上がりだが曇天の郊外、とはいえ住宅の密集する風景が続く。本文にあるように祖師ヶ谷大蔵駅で下車。コインロッカーがなく前日の荷物を抱えて商店街を進む。砧祭りという看板があちこちにみかける。昨日の雨で本日に順延されたと。空腹をみたすため吉野家へ寄ってしまったが奥まった喫茶店でモーニングと洒落ればよかった。商店街を歩く。和菓子屋、呉服店、仏壇店も連ねる古風な商店街。お店が途切れお屋敷ばかりになってくると左手に円谷プロを発見。ウルトラマンミラーマンが来訪者を出迎えている。駐車禁止を呼びかけるブースカ看板。日曜日で人影はない。さらに進むと道はやや下って話題の五叉路(七叉路)へ。一部工事中で歩くスペースがなく歩道橋でわたる。本にも載っていたお地蔵さんをカメラに収め、さらに奥まった小道を進めば東宝ビルドへ。守衛から「日曜日ですからご期待に添えない」と優しい説明あり。門から西の方向に街を見下ろすことができ、夕陽がさぞかし美しかろうと想像する。
東宝ビルドを後にして、いよいよ第12話をめぐる旅へ。しかし手元にある資料は文庫本に記載された簡便な地図のみ。東名高速の高架下をくぐるまでは順調だったが、さて岡本の坂道とはどれか?歩道に沿ってコンクリートで整備されていない小川が残されていて、水草がなびいている。「ザリガニや魚をとってはいけません」の看板が随所に。歩き始めた子どもと若い父親がほとりに。土地感なく東名からどんどん離れて歩いてしまう。これはまずいとUターンしてやっと坂道巡りへ。すべり止めの凹みのついた坂道は2,3本あり「百窓」跡地を特定できない。後で確かめると東名高速に近い坂道でよかったようだ。意外にも急な傾斜で、こんな道で白昼ロケができたのか。しかもあたりは見知らぬ者がうろつきまわる場所ではない。テニス帰りの若夫婦や立派な犬と散歩する夫婦の姿。脱いだコートと荷物で両手がふさがれ、先ほど余分に歩いたツケがきたのか、急激に疲労感に襲われる。近づいてきた路線バスに乗り、砧公園〜世田谷美術館を車窓に眺めながら桜新町駅前〜田園都市線へ。渋谷駅へ到着を待たなくとも日常へ戻っていた。
 ロケ地をめぐる旅といえば冬ソナと同じなのだが…。昨年の大阪万博では現存する太陽の塔が何かの感覚、記憶の源を鮮やかに甦らせてくれたのに比べると、再訪する感覚は薄く、ましてや具体的な名勝旧跡ではないロケ地めぐりが特定できないとなれば、彷徨うためにやってきたようなものである。