真夏の旗 flag of midsummer

mabuya2008-05-18

昨年8月、近江八幡・酒游舘で行われた浦邊雅祥のライヴ音源がCDになりました。桑山清晴さんとのデュオも抜粋ながら併録されています。タイトルは「真夏の旗」。浦邊さんのことだからなにか外国のマイナー文学の引用ではないかと検索してみると、思いがけず三木卓に同名の作品があることを発見しました。以前から知っていたわけではありません。氏の出発点は児童文学と聞いたことはありましたが未読。いや児童文学はリアルタイムではほとんど体験できませんでした。この機会に、と予想どおり絶版状態なので古本で求めました。届いたのは講談社文庫、しかも背表紙が現在ののっぺりとなる前、初期のデザインのやつです。挿画は篠原勝之(あの人?)。北国の一地方都市に住む中学生が、アマチュアのロック・バンドのメンバーと出会い、大人たちと出会い…そういう交流じたい現在では困難となっています。例えば《肝心なことは、じぶんがだれに利用されているか、をはっきり知ることだ。そして、そういうものからじぶんを守るすべをおぼえること。まずじぶんを大事にして、それから、そのじぶんが、どうしたら人間らしく生きることができるか、考えていくことだな……》、こんなフレーズが決して説教じみたものでなく、ちりばめられています。作品中《いまグループ・サウンズはずっと人気なくなっているし…》などというフレーズが時代を感じさせますが、高度経済成長にもバブルにも新自由主義にも左右されない世界です。作品全体を流れる疾走感がすばらしい。少年時代へのノスタルジアを込めて思うのですが、果たしてこれは児童文学なのでしょうか。私などがいま読んでちょうどいい内容です。