望月治孝ソロ@Spiralmart,静岡

午後、車で出発した。天気雨。今宵は最初から宿泊しない計画で、JR四日市駅のコインパーキングに着く頃には雨は止んでいた。しかしお目当ての普通電車を僅かに逃し、40分待ちかと肩を落としていたらダイヤが遅れているということですぐに乗車できた。名古屋で早めの夕食を摂り、新幹線ひかりを選んで静岡へ。ゴールデンウィークゆえ正規の料金で往復11340円。車中のBGMはRobert Horton。ライヴ会場に着くまでの繁華街は大勢の若者で賑わっている。往きも帰りもその雑踏の中を縫って通り抜けていかねばならない。ビルの階段を昇りきるとドアの向こうからフィードバック音が洩れ出てくる。演奏が始まったのか、時間厳守の望月くんだから十分に余裕をとってきたのに、と思いきやアンプの上にギターを載せただけの、開演前のBGMだったのだが倍音ハーモニクスしてモアレしているような味わいがあった。1000円。
望月くんのライヴのおもしろさのひとつに時間内にいくつもの表現方法を並列させる構成にある。今宵はこの小型エレキギター(何ていう?)とサックス。予定を5分おして、まずエレキで自作曲の弾き語り。初公開。これまでにピアノ、アコギ、オートハープなどによりカバーが歌われるのを楽しみにしてきた。その楽しみとは「知っているあの曲を」記憶の再現でもなく「どう崩すか、料理するか」など手垢にまみれた発想とも無縁で、そもそも自分がつくった歌のように聴かせてしまう、プラベートな「悲しみ」を普遍なものに化す歌唱にある。今宵、自作であるからこそまだこなれていないところがあったかもしれない。かつて観たことのあるアコギに比べて慣れていない、というよりも逆で、エレキが手軽に音が発生してしまう楽器だから(彼のサックスと比べたら一聴同然)。いつもよりコード進行をきちんとストロークしていた。そのストロークの息づかいがピアノのときと違う。一曲目の英語詞、その日本語訛りの英語がどこかで聞いたことがあると記憶を探れば工藤冬里の発音ではないか、cryとか特にtearsとか。後で訊くと鮎川信夫の影響大であると。2,3曲目は日本語で。続いてサックス。ボーカルマイクを設置したまま、これも当方にはお初で面食らった。これは聴き手にとっても大きな影響がある。当方が彼のスタイルに慣れ親しんできたからだけではなかろう、パフォーマンス的興味ではなく音そのものに移っているからだろう。最近自分が出没した僅かなライヴで各種サックスに出会う機会が多かったから尚更思う、澄み切った音。いや音が鳴っていないときに音楽が流れるミュージシャンは数少ない。スタンダードナンバーのフレーズも出入りする。幾度もリードを交換し長めに。本来ならばここまでだがアンコール拍手なしで再びエレキに戻り、カバー曲をいくつか披露してくれた。終演9時。名古屋へ到達できる最終の新幹線に乗るまで望月くんと歓談。
実は、と記してもよいだろう。今宵、演奏者と聴き手は差しで向かい合っていた。それに限りなく近いことはあってもそのものは初めての体験だった。いつもならば主催者でもないくせに懺悔したいような気持ちになるのだがそうではなかった。しかも欲張ったことに私はビデオにDATを用意していたし、何といっても今宵、レコーディング用のマイクのデビュー戦だった(Rode NT4)。感度が高いという触れ込みで、そのレベルを気にせずにライヴに臨んだかといえばNoだし、久々のビデオ撮りでステージからの逆光が気にはならなかったかといえばNo。ならば今宵の事態を予想した照れ隠しだったのか。いやそれとも記録者として居合わせただけで聴き手不在だったというのか。さまざまなエクスキューズを並べることはできる。しかし結論はいつもおんなじ、なんと贅沢な時間が過ぎていったか。
なお望月治孝の新譜がイギリスのVolcanic Toungueからリリースされた、といっても本人にもまだ届いていないのだが。下記プレス中、Scott Walkerの名前が引用されていることが気に入った。

Mochizuki Harutaka Muse Ni (Volcanic Tongue VT-007 CD-R £9.99)
Brand new release on Volcanic Tongue, the long-awaited new album by free Japanese saxophonist, pianist and vocalist Mochizuki Harutaka, his first ever non-Japanese release. Pressed in a run of 121 hand-numbered copies, the disc is packaged in card fold-out sleeves with obi strip, stamped inners, printed discs and inspired liners from Mr Dan Ireton aka Dredd Foole. Two piano/vocal tracks bookend three excruciatingly nuanced alto sax performances where he draws on the whole Abe/Urabe/Gustafsson school of overwhelmingly physical reed traumatism in order to mint a new, personally lucid energy-language that incorporates phantom register shrieks, sudden, lung-rending bellows and long passages of silent prayer. The two piano and vocal performances seem drawn from a parallel spirit-pot, referencing both the death-decadent atmosphere of Lou Reed's Berlin recordings and the torch songs of Scott Walker, Jacques Brel, Jandek and Baby Dee across a series of emotional, high-wire performances that match spare piano melodicism with frail-to-the-point-of-collapse vocals and beautiful unarmoured song. A truly singular disc, a portrait of a soul and - according to Harutaka himself - his best to date. We're proud as all hell to release this. Highly recommended.