深夜に水没する静岡市街にて@SpiralMart

昨日夕食を終えてから出発。家庭の都合からも宿泊の悩みからも逃れられるのがオールナイトの利点。新幹線で静岡へ。24時を過ぎても街はにぎやか。両替町を通れば声かけられる女性よりもより多くの若者ら、サラリーマンの姿。いつものSpiralMart。1500円。開演前、幕間もすべてBGMは望月くんが録音したという雨音で統一される。それだけが続く。救急車のサイレンの音なども交じる。時折唐突に一秒未満のブランクがあって、また何事もなかったかのように雨音が続く、その編集センスはジョナス・メカスの映画の音声のようでスリリング。本イヴェントのタイトルと関連していたのだと気づいたのは帰宅してから。フライヤーに掲載されていた掌編?も秀逸。30分押しの1:30AM開演。
望月治孝。初見の、オートハープのフィードバックで始まる。倍音の成分が心地よく爆音へ向かう。そのまま弾き語りで「街の灯」。〜ピアノ〜サックス。失礼な言い方だが私は拍手よりも投げ銭をしたい気持ちだった。ラギのような、現代の吟遊詩人。
サックスを吹き終えたばかりの荒い息で望月くんがなにやらコメントしたが聞き取れない。するとフロア後方に控えていた細身の、髪を伸ばした女性をステージへ誘導する。アコギのネックを無造作に掴んで、場慣れしていないように椅子の位置を決めてギターを抱える。固唾を呑んで最初の音を待つ。ギターの正しい教本的なピッキングとは異なる、弦をはじく行為そのもの。いや正しい弾き方を目指して初めてギターに触れたかのような緊迫感。敢えてフォーカスをはずす独自の間のとり方。いったい誰?その澄み渡った第一声を耳にして初めて、穂高亜希子だと気づく。その歌声はストレートに、年末の夾雑物とは無縁に深夜の静岡に伸びていく。そもそも、これは私のためのキャスティングではないだろうか、と妄想に入る。訪れてよかったという思い強まる。
開演前、Impedanceの尾形くんが「練習なしならば一緒に」と思いつきのように聞こえた、そのセッションが繰り広げられた。馬場陽太郎+Impedance+Ds。Dsの方、お名前は逸しましたが「雨の音を聞いてやりたくなった」と。馬場くんがついこの間までバンド形態で演っていたのが垣間見れる、馬場くんの表情がよかった。しかしギターの不調から馬場くんついにプラグだけでインプロ状態、拍手。
既に3時を越えて、けんきち。当方、二度目のライヴ。10月に比べて、歌詞の運びが遥かに自然となっていた。なにかを想定した、歌謡のスタイルに当てはめていくのではなくて、けんきちのソロに近づいていた。「メランコリー」とか。とはいえそれらを超えて驚いたのは封印されたと思っていた、赤い河の曲を演ってくれたこと…当方が初めて彼の歌を聴いた、今年1月のラスト2曲目だった歌。明瞭な語りで、それまでプライヴェート録音を幾十度聞き返しても判別しがたかった歌詞が目の前に呈示される。優れた作品、しかしその曲は作者にとっても幾分居心地悪そうな場所に収まったところから歌っているようにも聞こえ、思わず涙ぐむのを留まらせる機会となった。
トリがImpedance。前評判(どこの?)ではカルテット編成ともあったが尾形+山田のデュオ。それとて当方、初見。馬場くんに続いてベースのトラブルあり、思いがけず尾形くんがボーカルに集中したパートがあり、これは聞きものとなった。先ほどのセッションの余韻もあったのが残念であったか。
以上、当方の静岡巡礼を締めくくるかのようなラインアップで、今年最後のライヴ観戦を終えた。一番電車まで静岡市内を彷徨ったのも楽しい時間であった。新幹線の始発で帰宅。